・昔々、体の大きい500円玉は、小さくて軽い1円玉が大好き じゃった。日に日に想いはつのり、ある日ついに500円玉は 意を決して1円玉に想いを打ち明けたんじゃ。しかし1円玉は なかなか振り向いてくれんかった。 500円玉は諦めきれず、 材質や図案を変えたりしてさらに押し続けたが、それでも 1円玉は首を縦には振らんかった。ある夜のこと、 500円玉は風の噂で1円玉が10円玉を好いているらしいと 聞いたんじゃ。いてもたってもいられなくなった500円玉は 1円玉の家に走っていった。するとどうじゃろう、 まさに10円玉が1円玉の家に入っていくところじゃった。 しばらくすると、窓からは薄暗い明かりと二人の 楽しそうな声が漏れてきたそうな。 500円玉は、 いけないと思いながらついに中をのぞいてしもうた。 なんと1円玉は10円玉と、同じ導体として毎晩豆電球を 灯すのに夢中になるほど仲睦まじい夫婦に なっておったんじゃ。 500円玉はとぼとぼと家に帰り、 三日三晩泣き続け、気がついたときには自分の涙で すっかり体が錆びておった。それ以来ずっと、 今になっても新品の500円玉が時折思い出したように 錆びてしまうのは、出荷前に1円玉と10円玉とを 近くにまとめて置かれとったからと言われておるそうな。 [ ４号 ]